前回は、β(ベータ)崩壊、特に陽子が電子を捕獲して中性子に崩壊する電子捕獲を通じて、電子とニュートリノの関係性の一端を見ました。
そして、電子捕獲の構造「陽子+電子→中性子+ニュートリノ」から作った仮想図が次のものでした。
それぞれ大円と小円の間には次元の壁が存在し、また左円(左辺)と右円(右辺)の間にも、互いに行き来する際に粒子は反粒子に、反粒子は粒子に換わるのでしたね。
たとえば③式の、電子が右辺に移行すると陽電子に、ニュートリノが左辺に移行すると反電子ニュートリノに換わるのです。
では実際に、電子とニュートリノの関係性について見て行きたいと思います。
まず、電子とニュートリノより上次元に位置する陽子と中性子は一旦棚に上げ、電子とニュートリノにのみ注目します。つまり、電子とニュートリノが向かい合った状況を想定します。
この時、電子とニュートリノの間で働く、力を伝える粒子をWボソンと言います。
電子間で光子の交換(吸収と放出)を行うことで励起したり再結合するように、電子とニュートリノの間でWボソンを交換することで変化が起きるのです。
上図は、電子とニュートリノの間でWボソンを交換しているイメージ図です。このようにWボソンが伝える力を「弱い力(弱い相互作用)」と言います。自然界に存在する4つの力の内の一つです。
ところで、上図では表現できていませんが、ニュートリノが放ったWボソンを電子が受け取ると、電子はニュートリノに変化します。一方、受け取ったWボソンを投げ返すと電子に戻ります。
これが「弱い力」で生じる相互作用です。電子とニュートリノの間でキャッチボールをする度に、双方で電子になったり、ニュートリノになったりするのです。不思議ですよね。
電子遷移で見た光子の交換では、電子が励起したり再結合することはあっても、別の粒子に変化することはありませんでした。
「遷移(=状態の移り変わり)」という言葉のとおり、電子のエネルギー状態は変わっても、電子そのものが別の粒子に換わることはありませんでした。
しかし、Wボソンによる相互作用では、粒子そのものが別の粒子に換わって(崩壊して)しまうのです。
そして、この崩壊を「自己と他者の関係」で見ると、Wボソンの交換によって、自己が他者化したり、他者が自己化する現象と同じであると言えます。
たとえば、他者の目を気にしすぎれば、自己が他者化(他者に崩壊)してしまうようにです。
今回は混乱を避けるため、W⁻ボソン(負電荷)とW⁺ボソン(正電荷)を区別せず、Wボソンの交換ということで説明しましたが、この違いは、次回見て行きたいと思います。